シミュレーションの前提条件

海外送金のコストを比較する際、送金手数料の金額だけを見て判断すると実態を見誤りやすい。本記事では「日本からアメリカの銀行口座へ10万円を送金し、米ドルで受け取る」という身近なケースを設定し、大手銀行の窓口・ネット送金、資金決済法に基づく資金移動業者として日本でサービスを提供しているWise、同じく送金アプリとして利用者を伸ばしているRevolutの3つを比較した。試算は各サービスの公式シミュレーターと公表手数料をもとに、2024年6月のある時点の為替レートを用いて行ったものである。為替レートは常に変動するため絶対額そのものよりも、サービス間で生じる「差の構造」に注目してほしい。

比較にあたって重要なのは、海外送金の総コストが「送金手数料」「為替レートに含まれる上乗せ分(為替手数料)」「中継銀行・受取銀行の手数料」という複数の要素で構成されている点だ。銀行経由のSWIFT送金では、送金銀行の手数料に加えて、経由するコルレス銀行(中継銀行)が手数料を差し引く場合があり、受取側の銀行でも入金手数料が発生することがある。一方、WiseやRevolutのようなフィンテック系サービスは、両国に保有する自社口座間で資金を付け替える仕組みを採用しており、国境をまたぐ資金移動そのものを減らすことでコストを圧縮している。

比較結果:受取額に約30ドルの差

同じ10万円を送金しても、最終的に受取人の手元に届く金額はサービスによって大きく異なる。試算結果は次のとおりである。

サービス名 為替レート(1ドルあたり) 送金手数料 10万円で受け取れる額(米ドル)
大手銀行 約157.9円(TTSレート) 約4,000円 約608ドル
Wise 約156.9円(ミッドマーケットレート) 737円 約632ドル
Revolut 約156.9円(ミッドマーケットレート) 0円(無料枠内の場合) 約637ドル

※上記は特定の条件下での試算であり、実際の手数料・適用レートは送金時点の相場、会員プラン、中継銀行の有無などによって変動する。最新の条件は必ず各サービスの公式情報で確認してほしい。

大手銀行を利用した場合とフィンテック系サービスを利用した場合とでは、受取額に30ドル近く、日本円換算で約4,500円の差が生じる計算になった。10万円という送金額に対して4%超に相当するコスト差であり、留学費用や家族への生活費送金のように送金が毎月発生するケースでは、年間で数万円規模の違いになり得る。

差を生む正体は為替レートの「隠れコスト」

表を見ると、送金手数料そのものの差以上に効いているのが為替レートの差であることがわかる。銀行が外貨送金に適用するTTS(電信売)レートは、銀行間取引の基準となる仲値に為替手数料をあらかじめ上乗せしたレートである。米ドルの場合、仲値に対して1円程度上乗せされるのが一般的な水準で、10万円を送金するとレート差だけで600円以上のコストが発生する。この上乗せ分は「手数料」として明示されないため、利用者からは見えにくい。いわゆる隠れコストの典型例である。

これに対してWiseは、銀行間取引の中間値であるミッドマーケットレートをそのまま適用し、コストはすべて送金手数料として明示する料金体系を採用している。検索エンジンやニュースで表示される「実勢レート」とほぼ同じレートで両替されるため、利用者は支払う総コストを送金前に正確に把握できる。Revolutも同様にミッドマーケットレートを基準としており、プランごとの無料両替枠の範囲内であれば追加コストなしで送金できる設計だ(無料枠超過時や週末には上乗せ手数料が発生する点には注意が必要である)。

つまり「送金手数料が安い(または無料)」という表示だけでは比較として不十分で、適用される為替レートが仲値からどの程度乖離しているかまで含めて初めて、実質的なコストを評価できる。比較の物差しは「手数料の安さ」ではなく「同じ金額を送ったときの受取額」に置くべきだ。

ミッドマーケットレートと送金コスト引き下げの国際的潮流

送金コストの透明化は、一部の事業者のマーケティング上の工夫にとどまらず、国際的な政策課題でもある。世界銀行はRemittance Prices Worldwideというデータベースで世界各国の送金コストを継続的に調査・公表しており、国連の持続可能な開発目標(SDGs)には、送金コストを取引額の3%未満に引き下げるという目標(ターゲット10.c)が盛り込まれている。世界銀行の調査では、日本を含む先進国発の銀行送金は依然としてコストが高い送金経路のひとつとされており、今回の試算で銀行経由のコストが総額6%前後に達したことともおおむね整合する。

国内に目を向けると、WiseやRevolutといった事業者は、銀行ではなく資金決済法上の「資金移動業者」として金融庁(財務局)の登録を受けて送金サービスを提供している。資金移動業者には利用者資金の保全義務が課されているほか、犯罪収益移転防止法に基づく取引時確認(本人確認)も銀行と同様に義務付けられている。「銀行以外の送金は不安」と感じる利用者もいるが、登録事業者であれば法令上の利用者保護の枠組みの中で運営されている。利用前に、金融庁が公表している登録業者一覧で事業者名を確認しておくと安心だ。

送金前に確認したいチェックポイント

今回の試算を踏まえると、海外送金の前に確認すべきポイントは次のように整理できる。

  • 実質受取額で比較する:各サービスの公式シミュレーターに同じ送金額を入力し、受取額そのものを並べて比べる。
  • 適用レートの種類を確認する:TTSレートか、仲値(ミッドマーケットレート)か。仲値からの乖離幅が実質的な為替手数料となる。
  • 中継銀行手数料の有無を確認する:SWIFT送金では着金額が事前に確定しない場合がある。受取人負担か送金人負担かの設定も確認する。
  • 送金限度額と本人確認手続きを確認する:資金移動業者には送金額に応じた区分があり、利用には本人確認書類の提出が必要になる。
  • 着金までの所要時間を確認する:銀行送金は数営業日かかることがある一方、フィンテック系サービスは即日〜翌日着金のケースが多い。急ぎかどうかで選択肢が変わる。

また、為替レートを意識する習慣は海外送金に限らず役立つ。海外ECサイトでのクレジットカード決済、海外旅行先での両替やATM引き出しでも、表示レートと実勢レートの差という同じ構造のコストが発生しているからだ。

まとめ:手数料ではなく「実質受取額」で比べる

日本からアメリカへ10万円を送金するという単純なケースでも、サービス選択によって受取額には約30ドル(約4,500円)の差が生じた。その主因は送金手数料の差ではなく、為替レートに織り込まれた見えにくいコストである。海外送金サービスを選ぶ際は、手数料の表示額に惑わされず、同条件での受取額を比較すること、そして利用する事業者が金融庁登録の資金移動業者または銀行であることを確認することが基本となる。送金額・送金先・スピードの要件によって最適なサービスは変わるため、当サイトのサービス比較手数料の仕組みの解説もあわせて参考にしてほしい。