デジタル海外送金サービスの進化と新たな選択肢

スマートフォンアプリで完結するデジタル海外送金サービスのイメージ

海外送金の構図を変えるフィンテックの台頭

海外送金といえば、銀行窓口での煩雑な書類記入、不透明なコスト、数日かかる着金というのが長らく一般的なイメージだった。この構図を大きく変えたのが、フィンテック企業が提供するデジタル海外送金サービスである。日本では2010年に施行された資金決済法によって「資金移動業」という業態が創設され、銀行以外の事業者も登録を受ければ為替取引(送金)を扱えるようになった。これが、Wise(旧TransferWise)やRevolutといった海外発のフィンテック企業や、国内の資金移動業者が日本市場に参入する制度的な土台となっている。

資金移動業者は金融庁の監督下に置かれ、利用者から預かった資金の保全(供託等)が義務付けられている。銀行とは異なる枠組みながら、利用者保護の仕組みを備えたうえで、テクノロジーを武器に送金体験そのものを再設計している点が、これらのサービスの特徴といえる。

ミドルレート採用で進む手数料と為替レートの透明化

デジタル送金サービスがもたらした最大の変化のひとつが、コスト構造の透明化である。従来の銀行送金では、送金手数料に加えて、為替レートに上乗せされる為替手数料(スプレッド)や、中継銀行・受取銀行で差し引かれるコルレス手数料が発生し、「最終的にいくら届くのか」を事前に正確に把握しにくいという課題があった。

これに対し、Wiseに代表される新興サービスは、銀行間取引で使われる仲値に近い「ミドルレート(ミッドマーケットレート)」をそのまま適用し、その代わりに送金額に応じた手数料を明示するという料金体系を採用した。利用者は送金前の画面で「手数料がいくらで、相手にいくら届くか」を確認できるため、サービス間の比較が容易になり、価格競争を通じてコスト水準の低下が進んでいる。

送金コストの国際比較については、世界銀行が運営するRemittance Prices Worldwide(送金価格データベース)が参考になる。世界銀行は送金コストの引き下げを国際的な政策課題として掲げており、各国・各送金経路のコストを継続的に公表している。こうしたデータを見ても、デジタル系サービスは銀行窓口経由より低コストとなる傾向が確認できる。

SWIFTから即時決済網へ──着金スピードと利便性の向上

送金スピードの面でも進化は著しい。国際送金の基幹インフラであるSWIFT(国際銀行間通信協会)のネットワークでは、複数の中継銀行を経由することで着金まで数営業日を要するケースがあったが、SWIFT自身もSWIFT gpiによる送金の追跡・高速化を進めている。

さらにフィンテック各社は、英国のFaster Payments、欧州のSEPA Instant Credit Transferといった各国・地域の即時決済システムに接続し、現地通貨の払い出しを国内送金として処理する仕組みを構築している。送金元と送金先それぞれの国内決済網を組み合わせることで、資金が国境をまたいで物理的に動かなくても着金が完了するため、経路や通貨によっては数時間、場合によっては数分で受取人の口座に資金が届く。

アプリ完結とオンライン本人確認

利便性の面では、口座開設から送金までスマートフォンアプリで完結する点が大きい。犯罪収益移転防止法に基づく本人確認も、運転免許証等の撮影と顔写真の照合によるオンライン本人確認(eKYC)に対応するサービスが増え、銀行窓口の営業時間に縛られずに手続きできるようになった。一方で、外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づく確認や、送金目的・受取人情報の申告は引き続き必要であり、サービスによっては追加書類の提出を求められる場合がある点には留意したい。

多様化する選択肢と使い分けの考え方

現在、日本から海外へ送金する手段は大きく分けて、銀行の外国送金、Wise・Revolutなどの資金移動業者、PayPalのようなアカウント間送金サービス、そして送金特化型の事業者という選択肢がある。それぞれに得意分野が異なるため、用途に応じた使い分けが現実的だ。

たとえば、留学中の家族への定期的な仕送りや海外フリーランスへの少額の報酬支払いであれば、ミドルレート採用で手数料が明示されるデジタル送金サービスのコスト優位性が出やすい。一方、貿易決済のような高額送金や、送金先の銀行・通貨が新興サービスの対応範囲外であるケースでは、依然として銀行のSWIFT送金が確実な選択肢となる。PayPalはECの代金決済やアカウントを持つ相手への支払いに強みがあるが、為替レートや受取側の引き出しコストを含めた総コストで比較することが重要だ。

金額面の制約も変化している。資金移動業は創設当初、1件あたり100万円相当額以下という上限があったが、2021年施行の改正資金決済法で類型が見直され、認可を受けた第一種資金移動業者は100万円を超える高額送金を扱えるようになった。法人の支払いなど、従来は銀行一択だった領域にもデジタル送金サービスの選択肢が広がりつつある。

制度整備と今後の展望

選択肢が増える一方で、利用者側の確認事項も明確になっている。第一に、利用するサービスが金融庁に登録された資金移動業者(または銀行)であるかどうか。登録業者の一覧は金融庁のサイトで公表されている。第二に、資金保全の仕組みやトラブル時のサポート体制。第三に、為替レートの適用タイミングと総コストである。表面的な手数料が安く見えても、レートの上乗せ幅を含めると割高になる場合があるため、「受取額ベース」での比較が欠かせない。

国際決済の高速化・低コスト化は、国際決済銀行(BIS)やG20がクロスボーダー送金の改善目標を掲げるなど、国際的にも重要なテーマと位置付けられている。国内でも全銀システムの参加資格が資金移動業者へ開放されるなど、銀行とフィンテックの垣根は段階的に低くなりつつある。海外で働く人材の増加、越境ECの拡大、フリーランスの国際的な活動といった構造的な需要を背景に、デジタル海外送金市場は今後も拡大が見込まれる。透明な料金体系と速い着金を武器にした競争は、最終的に利用者の選択肢と利便性をさらに押し広げていくだろう。