「累積保険の還付金がある」と電話、ATM操作で約100万円被害 還付金詐欺から考える送金・決済の不正対策

還付金詐欺のイメージ。電話の指示を受けながらATMを操作させられ、振込によって資金がだまし取られる手口を表すイラスト

2026年5月、北海道・釧路管内に住む60代の女性が「累積保険の還付金がある」という電話を受け、指示されるままATMを操作した結果、約100万円をだまし取られる特殊詐欺被害が発生したと報じられた。典型的な「還付金詐欺」の手口であり、電話一本とATM操作だけで、被害者が自覚のないまま犯人側の口座へ振込を実行してしまう点に特徴がある。本稿では、この事件を題材に、還付金詐欺の仕組み、銀行や資金移動業者が講じている不正対策の枠組み、そして送金・決済サービスの利用者とその家族が押さえておくべき自衛策を整理する。

参考: STVニュース北海道(2026年5月報道)、警察庁 特殊詐欺対策ページ「SOS47」

事件の概要:電話でATMへ誘導される還付金詐欺

報道によれば、被害者は「累積保険の還付金がある」との電話を信じ、ATMで電話の指示を受けながら操作を行い、結果として約100万円を相手側の口座へ送金してしまった。還付金詐欺では、犯人が市役所や年金事務所、健康保険組合などの職員を名乗り、「払い過ぎた保険料や医療費が戻る」「今日が手続きの期限だ」と急がせるのが常套手段である。被害者は還付金を「受け取る」操作をしているつもりで、実際には「振り込む」操作をさせられているため、被害の自覚が遅れやすい。

ATMコーナーで携帯電話で通話しながら操作している高齢者は典型的な被害の兆候とされており、金融機関の職員やコンビニエンスストアの店員による声かけで未然に防がれた事例も数多く報告されている。逆に言えば、無人のATMコーナーや、誰にも相談できない状況に誘導された時点で、被害のリスクは大きく高まる。

手口の核心:ATMで還付金は受け取れない

還付金詐欺を見破るうえで最も重要な事実は、「ATMの操作で還付金を受け取る公的手続きは存在しない」という一点に尽きる。自治体や保険者からの還付は、原則として書面での通知と指定口座への振込で行われ、ATMの操作を電話で指示されることはない。犯人は「手続き番号」「受付番号」などと称した数字を入力させるが、その実体は振込金額そのものであることが多い。

ATMの画面には振込操作であることが表示され、振り込め詐欺への注意を促す警告画面も挟まれるが、電話で急かされながらの操作では確認がおろそかになりがちだ。こうした実態を踏まえ、警察や金融機関は注意喚起を繰り返しているほか、一部の金融機関では、一定年齢以上でキャッシュカードによる振込の利用実績がない口座についてATMの振込機能を制限したり、振込限度額を引き下げたりする取り組みを進めている。ATM周辺での携帯電話の通話自粛を呼びかける店舗も増えており、ATMという「最後の砦」で被害を食い止める対策が重ねられている。

金融機関の法的対策:犯罪収益移転防止法と振り込め詐欺救済法

金融機関側の不正対策は、法制度に支えられている。銀行や資金移動業者は、犯罪収益移転防止法に基づき、口座開設や高額取引の際の取引時確認(本人確認)と、疑わしい取引の届出を義務付けられている。詐欺グループが振込先として悪用する口座の多くは、売買された口座や他人名義の口座であり、口座開設時の審査強化と取引モニタリングは、詐取金の受け皿を断つための基本的な防衛線となる。

万一被害に遭った場合に重要なのが、振り込め詐欺救済法(犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律)の存在である。被害に気づいたら、警察への通報とあわせて振込先の金融機関に連絡して口座の凍結を依頼すれば、凍結口座に残った資金から被害回復分配金の支払いを受けられる可能性がある。詐取金は短時間で別口座へ移されるため、連絡は一刻を争う。制度の概要や金融機関への監督方針、特殊詐欺に関する注意喚起は金融庁の公式サイトで公表されており、登録を受けた資金移動業者の一覧もここで確認できる。

海外送金・国際決済業界への示唆:詐取金の国外流出を防ぐ

本件のような国内の特殊詐欺は、海外送金・国際決済の業界とも無縁ではない。詐取された資金は、複数の国内口座を経由したのち、暗号資産や海外送金サービスを使って国外へ移転されるケースが指摘されており、いわゆる「マネーミュール(運び屋)」として口座や送金アカウントを貸す行為自体が犯罪収益移転防止法等に触れる違法行為となり得る。資金の国外流出を許せば被害回復は著しく困難になるため、国際送金の出口を守ることは被害者保護に直結する。

資金決済法に基づく登録を受けた資金移動業者であるWiseをはじめ、RevolutやPayPalといった事業者、そして銀行の外国送金窓口は、取引時確認に加えて、送金パターンの異常を検知するトランザクションモニタリングを運用している。日本から海外へ送金する際には、国外送金等調書の制度によりマイナンバーの告知が求められるなど、国内振込より厳格な手続きが設けられているのもこのためだ。「見知らぬ相手から頼まれた送金代行」「理由を説明できない高額送金」は、こうした審査で保留・拒否の対象となる。利用者の側も、送金目的の確認や追加書類の提出依頼を煩雑な手間と捉えるのではなく、不正資金の流れを断つための仕組みとして理解しておきたい。

利用者と家族ができる自衛策

還付金詐欺は手口が定型的であるだけに、基本的な心構えで防げる余地が大きい。本件を踏まえ、以下のポイントを家族で共有しておきたい。

  • 電話で「還付金」「ATM」という言葉が出たら詐欺を疑い、いったん電話を切って、自治体や保険者の公式窓口の番号にかけ直して確認する。
  • ATMを操作しながらの通話はしない。携帯電話で指示を受けながらのATM操作を求められた時点で詐欺と判断してよい。
  • 固定電話は留守番電話に設定し、知らない番号には出ない。家族間で合言葉を決めておくのも有効だ。
  • 高齢の家族の口座には、ATMの利用限度額の引き下げや振込機能の制限を金融機関に相談して設定しておく。
  • 被害に気づいたら、すぐに警察(緊急時は110番、相談は警察相談専用電話#9110)と振込先・振込元の金融機関へ連絡し、口座凍結を依頼する。

送金・決済サービスの利便性が高まるほど、詐欺グループにとっても資金移動の選択肢は広がる。事業者の不正検知と利用者側の基本動作の両輪で被害を防ぐという視点は、国内のATM詐欺から国際送金まで共通している。用語の確認には当サイトの用語集も活用してほしい。

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