シティ、トークン化預金サービスを日本とUAEに拡大 24時間365日即時送金が実現へ
ニュースの概要
シティグループが法人向けトークン化預金サービス「シティ・トークン・サービス」の提供地域を日本とUAEに拡大したと報じられた。日本では米ドル建て、UAEでは米ドル・ユーロ建ての取引に対応し、ブロックチェーン技術を使って銀行間送金を24時間365日ほぼ即時に行えるようにする。従来の銀行送金は平日営業時間内のカットオフ時間に縛られていたが、同サービスはこの制約を取り払う。提供地域は米国・アイルランド・香港・シンガポール・英国を含め計7市場に広がり、国際決済の高速化競争が新たな段階に入ったことを示している。
引用元: シティ、トークン化預金サービスを日本とUAEに拡大(Yahoo! Japan / Reuters)
分析・見解
銀行間送金が抱えてきた「土日と祝日の壁」をどう壊すか
国際送金が遅い最大の理由は、技術よりも「営業時間」にある。各国の銀行には資金移動を締め切る時刻(カットオフタイム)があり、土日祝日や時差が重なると着金まで数日かかることも珍しくない。たとえば金曜夕方に欧州子会社への送金が必要になっても、現状は月曜の現地営業開始まで着金を待つしかない。シティのトークン化預金(=銀行預金をデジタルの証票に置き換えて動かす仕組み)は、この営業時間の概念そのものを取り払う。法人の資金担当者からすれば、週末に発生した決済ニーズを月曜まで待たずに処理できることは、資金繰りの安全余地を大きく広げる変化だ。
トークン化預金とステーブルコインは何が違うのか
似た言葉に「ステーブルコイン」があるが、仕組みは異なる。ステーブルコインは発行体が別に準備資産を持つ新しい通貨的な存在であるのに対し、トークン化預金はあくまで銀行口座の残高をブロックチェーン上の記録に写し取ったものだ。日本国内でも円建てのステーブルコインを巡る議論が進むが、預金ではなく新しい発行体の信用に依存する点で性質が異なる。預金保険や銀行の信用力がそのまま適用されるため規制当局との相性が良く、大企業の資金部門が受け入れやすい。シティがまず法人向けに絞って展開しているのは、この「規制の土俵の上で速さを実現する」という狙いが明確だからだろう。
日本とUAEを選んだ理由に見える次の勢力図
今回の対象国は日本とUAEで、通貨は米ドル(日本)、米ドル・ユーロ(UAE)。両地域に共通するのは、貿易決済や資源取引で米ドルが大量に動く点だ。日本は自動車・電子部品関連の調達で東南アジア・中東との決済が多く、とりわけ半導体材料や部品の輸出入では決済額が大きく、数日の遅延が運転資金の圧迫につながりやすい。UAEは原油・金融ハブとして欧米企業の資金が集中する。シティは「送金量が多く、時差で非効率が生じやすい回廊」を狙って拡大しており、今後はインドや東南アジアの主要ハブが続く可能性が高い。
メガバンクの出方次第で競争の構図が変わる
JPモルガンの「Kinexys」やHSBCの同種サービスなど、大手行はすでに類似の即時決済網を競うように広げている。一行だけが先行しても取引相手の銀行が対応しなければ効果は限定的なため、今後は「どの通貨回廊を、どの銀行連合が押さえるか」という陣取り合戦になる。三菱UFJやみずほといった邦銀がこうした国際的な即時決済網にどう連携していくかも、今後の注目点になる。日本の銀行がこの種のネットワークにどう参加していくかは、国内企業の海外送金コストに直結する論点になる。
ビジネスへの影響
自社の資金繰り表は「営業日ベース」のままで良いのか
これまで経理・財務担当者は、送金が平日しか動かないことを前提に支払いスケジュールを組んできた。トークン化預金のような24時間即時送金が広がれば、週末や祝日をまたぐ資金移動のタイムラグがなくなり、手元資金を薄くしても資金ショートのリスクを抑えられる。特に海外子会社との資金プーリング(グループ内の資金を一か所に集約する手法)を行う企業は、キャッシュポジションの見直しを検討する価値がある。資金繰り表を「平日ベース」から「毎日ベース」へ組み直すだけでも、与信枠に頼る場面を減らせる可能性がある。
取引銀行への確認は「対応予定」ではなく「対応時期」で聞く
今回のサービスはシティの法人顧客向けであり、個人や中小企業がすぐに恩恵を受けるわけではない。ただしメガバンク同士の競争が進めば、サービスは数年のうちに取引銀行網へ波及する可能性が高い。海外送金コストや着金日数を経営指標に含めている企業は、取引銀行に「導入予定の有無」ではなく「対応時期の目安」を具体的に尋ねておくと、資金計画の精度が上がる。
新しい決済網への接続コストも事前に見積もっておく
こうしたサービスを使うには、自社の会計・資金管理システム側もAPI連携などの対応が必要になる場合が多い。導入検討の初期段階から情報システム部門と財務部門が連携し、既存の基幹システムとの接続方法や想定される連携コストを洗い出しておくことが望ましい。拙速な導入よりも、自社の取引量や使用する通貨回廊に見合った投資判断が求められる。