エチオピアのPAPSS参加が示す、ドルに頼らないアフリカ域内決済の現実味と残る課題
ニュースの概要
エチオピア中央銀行が、アフリカ域内の貿易や送金を現地通貨で決済できる汎アフリカ決済・清算システム「PAPSS」への参加を決めた。PAPSSはアフリカ輸出入銀行とアフリカ大陸自由貿易圏(AfCFTA)の事務局が2022年に立ち上げた仕組みで、米ドルや域外の銀行を経由する従来の送金ルートへの依存を減らすことを狙う。参加国の銀行同士が相手国の通貨のまま支払いをやり取りできるようにし、手数料と時間の負担を軽くする構想だ。すでにナイジェリア、ザンビア、マラウイ、ケニアなどが参加や接続を進めており、人口1億2千万人を超えるエチオピアが加わる意味は小さくない。
引用元: エチオピア中央銀行、アフリカ域内決済システムPAPSSに参加(Reuters)
分析・見解
外貨不足に悩む国が、決済の新しい通り道を求めた
エチオピアは長年、ドル不足に悩んできた。2024年7月には通貨ブルの管理を緩め、為替レートを市場の動きに任せる方向へ大きく舵を切った。それでも輸入代金の支払いを待たされる企業は多い。
PAPSSの狙いは、「まずドルに替える」という手順を減らすことにある。たとえばケニアの輸出業者がエチオピアの買い手に商品を売るとき、従来は両国の通貨をいったんドルに替え、域外の銀行を通して送金していた。PAPSSでは、域内の仕組みで受け払いをまとめて清算する。ドルの手当てが少なくて済み、手数料や着金までの日数も縮められる。
仕組みを変えても、貿易の偏りと通貨の不安は残る
現地通貨で決済しても、国全体で見れば、輸入が輸出を大きく上回る国は差額を払う手段を用意しなければならない。エチオピアの輸入額は輸出額の数倍に達する。仕組みを変えても、外貨を稼ぐ力が変わらなければ、ドル不足は根本からは解消しない。
さらに、受け取る側の不安もある。ブルは変動相場に近づいてから対ドルで大きく下がった。価値が下がりやすい通貨で代金を受け取るのは、輸出業者にとって歓迎しにくい。
参加表明と実際の取引量は別という先行国の教訓
エチオピアの貿易相手は、中国やアラブ首長国連邦、インドなど域外の国が中心である。域内貿易そのものが小さいため、参加直後に目に見える変化が出るとは考えにくい。
2022年の開始から数年がたつが、中央銀行が接続しても、市中銀行が窓口を整え、企業が使い方を理解しなければ取引は増えない。アフリカの域内貿易は全体の1割台半ばにとどまり、欧州の6割前後、アジアの5割前後と比べて小さい。決済の改善だけで、この差は埋まらない。道路や通関、関税の整備が並行して必要だ。一方で、参加国が増えるほど使い道が広がる、網の目のような仕組みである点は強みになる。エチオピアの参加は、その網を東アフリカで厚くする意味を持つ。
最初に効くのは、国境の小口取引と家族送金かもしれない
独自に注目したいのは、大口の貿易よりも、隣国との国境周辺の小口取引や、海外からの家族送金である。こうした取引は、手数料が高かったり、銀行を通さない非公式な手段に流れたりしやすい。エチオピアでは為替管理を緩める前、闇市場のレートが公式レートを大きく上回っていた。
正規の経路が安く早くなれば、非公式な資金の流れを銀行に戻す効果が期待できる。ただし、少額の利用者に届く窓口づくりは、これからの課題だ。今回の参加は即効薬ではなく、将来に向けて通り道を先に作る一手と見るのが現実的である。
ビジネスへの影響
域内取引の前に、取引銀行の対応状況を確かめる
参加が決まったからといって、すべての企業がすぐ使えるわけではない。実際に利用できるのは、PAPSSに接続した銀行を通す場合に限られる。エチオピアやケニア、ナイジェリアと取引する企業は、取引銀行が接続済みか、どの通貨の組み合わせに対応するかを早めに問い合わせたい。エチオピア側の取引先が口座を持つ銀行の状況も、あわせて聞いておくと行き違いが減る。見積もりの段階で、従来のドル建て送金と手数料や着金日数を比べておけば、切り替えの判断がしやすくなる。日本企業でも、アフリカ向けの輸出や現地法人への資金移動があれば、現地銀行を通じて間接的に影響を受ける。
為替の損得を、契約書でどう分け合うか決めておく
現地通貨決済は、ドル不足の影響を受けにくい反面、受け取る通貨の価値が下がる危険がある。価格を現地通貨で決めるのか、ドルで決めて現地通貨で払うのかで、リスクを負う側が変わる。契約書には、為替レートの決め方と基準日、支払いが遅れたときの扱いを書き込みたい。また、現地で受け取った代金を滞留させないよう、現地での仕入れや人件費に充てる計画も立てておくと安全だ。
少額の試験運用で、費用と所要時間を記録する
大口の取引を一度に移すのではなく、少額で数回試し、手数料、着金までの時間、問い合わせへの対応を記録する。三か月ほどの記録があれば、社内の稟議も通しやすい。域内決済でも、本人確認や不正送金対策の審査は省けないため、必要書類は従来どおり準備する。新しい仕組みは制度変更や不具合も起こり得るので、従来の送金経路を残した二本立てを基本とし、取引先にも事前に説明しておく。