送金アプリが財布になる日 Remitlyの国内送金参入を読む

送金アプリが財布になる日 Remitlyの国内送金参入を読む

ニュースの概要

Remitlyは11月4日、米国の対象顧客向けにGlobal Cardの提供を全国へ広げたと発表した。カードの残高から、ほかのGlobal Card利用者へ、アプリ内またはテキストメッセージ経由で送金できる。相手にお金を請求する機能もあり、まだ登録していない人には登録用のリンクを送って招待できる。これまでRemitlyは海外175カ国への送金を中心に事業を伸ばしてきた。今回の機能追加で、給与の受け取りから日々の支払い、国内での個人間送金までを一つのアプリで扱えるようになる。海外送金の会社が、生活全体のお金を預かる場へ踏み出した動きだと言える。

引用元: Remitly、米国全土でGlobal Cardを提供開始し、国内送金・送金依頼に対応(Remitly / GlobeNewswire)

分析・見解

海外送金専業が国内送金へ踏み出す理由

Remitlyの収益は、海外送金1件ごとの手数料と為替の差益に支えられてきた。ただし利用は月に数回で、利用者との接点は限られる。送金を終えれば、アプリを開く理由がなくなってしまう。

国内の個人間送金を加えると状況が変わる。家賃の割り勘、友人への立て替え、家族への仕送りなど、日常の用事で毎週アプリを開くようになる。接触頻度が上がれば、給与の受け取り口座として選ばれる可能性も高まる。海外送金は「年に数回の用事」から「毎日の財布」へと位置づけが変わる。

米国の個人間送金市場で後発になる不利と勝ち筋

米国の個人間送金は、Zelle、Venmo、Cash Appがすでに大きな利用者を抱えている。Zelleは銀行口座どうしを結ぶ仕組みで、国内では事実上の標準になっている。Remitlyが同じ土俵で正面から戦っても、利用者数では勝てない。

勝ち筋は、国境をまたぐ人に絞ることにある。米国には、母国の家族へ定期的に送金する移民が多い。こうした人々は、受け取った給与を国内で使い、残りを海外へ送る。ZelleやVenmoは海外送金に弱く、Remitlyは国内送金に弱かった。両方を一つに束ねれば、既存サービスが取りこぼしてきた層を取り込める。

ここで一つ、見落とされやすい点がある。国内送金そのものは、利益を生みにくい。無料に近い水準で提供するのが普通だ。しかし無料の国内送金は、利用者を引き留める「えさ」になる。そこから海外送金へ流れる比率が上がれば、全体の収益は十分に合う。

招待リンクで広がる仕組みと信頼の壁

今回の機能で特に巧みなのは、未登録者への招待リンクだ。送金依頼を受けた相手が登録しなければ、お金を受け取れない。つまり送金したい人が、そのまま新規利用者の勧誘役になる。広告費をかけずに利用者が増える、典型的な口コミ型の成長の形である。

PayPalやVenmoは、同じ仕組みで利用者を一気に増やしてきた。一方で壁もある。見知らぬ相手からの請求や招待リンクは、詐欺に悪用されやすい。2023年以降、米国では送金アプリを使った詐欺の被害が目立つ。請求の真偽を確かめる画面や、不審な相手を止める仕組みが、成長の速度と同じくらい重要になる。

日本の読者が押さえておきたい広がりの方向

日本でも、外国人労働者の増加で海外送金の需要は伸びている。銀行の窓口や専業の送金会社が担ってきた領域に、スマホアプリが生活口座として入り込む流れは、いずれ日本にも届く。資金移動業者の規制は国ごとに違うが、「送る」「受け取る」「使う」を一つにまとめる方向は共通している。

ビジネスへの影響

送金コストだけで比べる時代の終わり

企業が外国人従業員を雇う場合、これまでは給与を銀行口座に振り込めば終わりだった。しかし従業員の多くは、受け取った給与の一部をすぐに母国へ送る。給与の受け取り先と送金手段が同じアプリなら、従業員の手間と手数料は大きく減る。

福利厚生として見ても、送金手数料の安さは地味ながら効く。採用競争の場面で、手取りが実質的に増える点を伝えられるからだ。人事担当者は、給与の振込先に選べる決済サービスの選択肢を、今から調べておく価値がある。

決済・送金事業者が今のうちに見直すこと

送金サービスを運営する側は、単機能の強さだけで勝負する危うさを意識したい。Remitlyの動きは、海外送金という専業が、利用頻度の高い機能を足して囲い込みに入った例だ。自社の利用者が月に何回アプリを開くかを確認し、頻度が低いなら日常の用事に結びつく機能を検討したい。

あわせて、詐欺対策を後回しにしない。招待や請求の機能は成長を早める反面、被害が出ると信頼を一気に失う。新機能を出すときは、利用上限や初回送金時の確認画面を同時に設計する。

導入判断で確認したい三つの指標

新しい送金手段を社内で採用するか迷ったときは、次の三点を見る。第一に、実際に受け取れるまでの時間。第二に、為替の差益を含めた総コスト。第三に、不正があったときの補償と窓口の対応だ。表示される手数料が安くても、為替で差が出れば意味がない。数字は必ず少額の試し送金で確かめてから、本格導入に進みたい。

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